富山県の最低賃金は、令和8年10月1日に時間額1,119円へ改定される見込みです。時給を上げること自体は避けられませんが、同じ時期に設備を入れると、その費用の4分の3が国から助成され、富山県からさらに上乗せがあります。ただし申請できるのは9月1日から、締切は9月30日の見込みで、動ける期間は約1か月しかありません。しかも申請・賃上げ・設備導入には決められた順序があり、ここを外すと同じことをしても対象になりません。
この記事のポイント
- 富山県の最低賃金は令和8年8月5日に1,119円と答申されました。10月1日発効の見込みで、業務改善助成金の締切は9月30日の見込みです
- 順序が決まっています。賃金の引上げは交付申請の後、設備の契約・納品・支払は交付決定の後です
- 富山県には上乗せが2つあります。設備費への賃上げサポート補助金と、社労士報酬への賃上げ応援補助金です
富山県の締切は9月30日の見込み
令和8年8月5日、富山地方最低賃金審議会は富山労働局長に対し、富山県最低賃金を現行の1,062円から57円引き上げ、1,119円に改正することが適当である旨を答申しました。引上げ率は5.37%で、過去最大だった前年の64円に次ぐ引上げ額です。富山労働局は、この改正が令和8年10月1日に発効する見込みとしています。
業務改善助成金の申請期間は「令和8年9月1日から、申請する事業場の都道府県で適用される地域別最低賃金の発効日の前日、または11月30日のいずれか早い日まで」です。富山県が10月1日発効となれば、締切はその前日の9月30日です。11月30日まで待てる県ではありません。
図1 富山県の令和8年度スケジュール(見込み)
9月1日(火)助成金の受付開始
あわせて最低賃金の官報公示が見込まれ、発効日が確定します
→
9月30日(水)申請の締切(見込み)
賃金引上げもこの日までに完了させます
→
10月1日(木)新しい最低賃金1,119円が発効(見込み)
発効日は2026年8月24日時点で未確定です。答申要旨の公示は8月20日まで行われ、労働局長の決定・公示(官報掲載)は9月1日ごろ、発効は10月1日の見込みです。確定までは「9月30日締切の想定で準備し、公示で確認する」進め方になります。最新の整理は富山県の最低賃金 いまの額と次の額にまとめています。
自社が対象になるかを確認する
対象となるのは、次をすべて満たす中小企業・小規模事業者です。申請は会社単位ではなく、労働者がいる事業場ごとに行います。
図2 対象になるかの確認
- 事業場内最低賃金が1,119円未満か事業場でいちばん低い時給のことです。答申額での判定になるため、公示後に再確認します
- 週20時間以上・雇用保険に加入している労働者か引上げの対象になるのはこの範囲の方です。週20時間未満のパートは人数に数えられません
- その方の雇入れから6か月を経過しているか事業場内最低賃金として引き上げる労働者に必要な条件です
- 直近に解雇や賃金の引下げを行っていないか不交付事由です。支給後に判明した場合も返還を求められます
- 同じ設備に他の補助金を充てていないか国や地方公共団体の補助金と同じ設備には使えません。設備を分ければ併用できます
このほかに、申請書提出日の前日から起算して1年前以降の労働関係法令違反、過去5年以内に労働局長から受けた補助金等の決定の取消し等、同一年度内の同一事業場での申請済みなどが不交付事由にあたります。
富山県で注意したいのが助成率です。助成率は事業場内最低賃金が1,050円未満なら5分の4、1,050円以上なら4分の3と決まっています。富山県の地域別最低賃金は現行1,062円で、10月からは1,119円です。適法に運営している事業場に1,050円未満の労働者は通常いませんから、富山県内では実質的に4分の3で計算することになります。全国向けの解説記事にある「5分の4」の例をそのまま当てはめると、受給額を多く見積もってしまいます。
もうひとつ、コース選びにも富山県ならではの制約があります。現在の事業場内最低賃金が1,062円ちょうどの事業場が50円コース(+50円)を選ぶと1,112円になり、10月からの1,119円を下回ってしまいます。現在の時給が1,069円以下なら、70円コース以上を選ぶ必要があります。
助成の上限額(事業場規模30人未満の場合・主な区分)
| コース | 引き上げる労働者数 | 上限額 | 助成率4分の3での設備予算の目安 |
| 70円 | 1人 | 50万円 | 約66.7万円 |
| 70円 | 2〜3人 | 100万円 | 約133.3万円 |
| 90円 | 2〜3人 | 240万円 | 320万円 |
| 90円 | 8人以上 | 450万円 | 600万円 |
支給額は「設備投資などにかかった費用×助成率」と「上限額」を比べて安い方です。上限額を超えて支給されることはないため、設備予算は「上限額÷助成率」で逆算します。4〜5人・6〜7人の区分もあります。特例事業者が10人以上を引き上げる場合の600万円の区分は、富山県では物価高騰等要件に該当する場合に限られます。
順序を間違えると、同じことをしても対象外になる
この助成金でいちばん多い失敗は、要件そのものではなく順序です。賃金の引上げと設備の導入とで、着手してよい時点が違います。
図3 着手してよい時点は、賃金と設備で違う
正しい順序① 交付申請を出す
② 申請の後に就業規則を改正し、時給を引き上げる(9月30日まで)
③ 交付決定の通知を受ける
④ 決定の後に設備を契約・納品・支払(1月31日まで)
対象外になる例・交付決定を待ってから時給を引き上げた
→ 審査には通常3か月ほどかかり、9月30日に間に合いません
・良い機械が見つかったので先に発注した
→ 交付決定前の契約・納品は対象外です
賃金の引上げは「交付申請の後から、地域別最低賃金の発効日の前日まで」に実施します(交付要領 第2の3・第2の7)。設備投資と助成対象経費の支出は「交付決定の後から、交付決定の属する年度の1月31日まで」です(同 第2の8)。
賃金引上げまで交付決定を待ってしまうと、まず間に合いません。交付要綱第6条第1項は、申請書が到達した日から起算して原則として3月以内に交付・不交付を通知すると定めています。9月に申請して12月に決定が出たとしても、そのころには9月30日という期限を過ぎています。賃金の引上げは交付決定を待たない——ここを取り違えないでください。
逆に設備は、交付決定を受けるまで契約も納品もできません。見積を取るところまでは進められますが、発注は決定通知を受けてからです。
賃金引上げ日をいつにするか
制度が見ているのは、給与の支払日でも賃金の締め日でもありません。就業規則等を改正して、その効力が発生した日です。就業規則等の改正および適用がなされたことをもって、引上げが実施されたものとして扱われます。
ここを押さえると、給与計算の負担を避けられます。賃金の締め日の翌日を適用日にすれば、ひとつの給与計算期間の途中で単価が変わりません。
図4 締め日ごとの、おすすめの適用日
15日締め → 9月16日9/16〜10/15分から新しい時給。期間の途中で変わりません
20日締め → 9月21日9/21〜10/20分から新しい時給。期間の途中で変わりません
25日締め → 9月26日9/26〜10/25分から新しい時給。期間の途中で変わりません
末日締め → 9月2日ごろ締め日の翌日が10月1日で使えないため、9月の初めに置きます。9月分のうち数日だけ旧単価で計算します
適用日は「自社が交付申請を出した日より後」かつ「9月30日まで」に置きます。9月1日以降であっても、申請より前に効力が発生していると対象外です。末日締めの場合、9月1日にシフトが入っていない方であれば、日割りの計算そのものが発生しません。
あわせて注意したいのが次の3点です。2回に分けた引上げは認められません。9月に30円、11月に60円と分けても、合算しての判定はされません。引上げ後の額と同額を就業規則等に定める必要があります。常時10人以上の事業場では労働基準監督署への変更届が必要で、10人未満の事業場は「就業規則に準ずるもの」で足り、届出は不要ですが労働者代表の意見書と周知が必要です。労働条件通知書や労働契約書は「準ずるもの」には当たりません。
富山県の上乗せは2種類ある
富山県には、国の業務改善助成金に上乗せする制度が2つあります。名前が似ていますが、補助の対象がまったく違います。
図5 国と富山県の3つの制度
国:業務改善助成金設備費の4分の3(富山県の場合)
上限は引上げ額と人数で決まります
申請 9月1日〜9月30日(見込み)
県:賃上げサポート補助金設備費への上乗せ
50円コース10分の1/70円コース20分の3/90円コース5分の1
事業場規模30人未満が要件
県:賃上げ応援補助金社労士への報酬への補助
中小企業2分の1/小規模事業者3分の2、上限10万円
県の2制度はいずれも申請期限が令和9年2月26日で、申請するのは事業者ご自身です。賃上げサポート補助金は、国の交付決定通知書と交付額確定通知書の写しが添付書類として必要なため、国の交付額が確定した後でなければ申請できません。
賃上げサポート補助金の補助上限額は「国の助成上限額に県の補助率を掛けた額」です。たとえば90円コースで2〜3人を引き上げ、事業場規模30人未満であれば、国の上限240万円に5分の1を掛けた48万円が県の上限になります。
賃上げ応援補助金のほうは、助成金の支給申請手続、制度導入に係る規定の整備等のための書類作成、就業規則の整備等を社会保険労務士等に依頼した費用が対象です。業務改善助成金が対象制度として明記されています。申請するのは事業者であって社労士ではない点にご注意ください。
自社だけで判断しないほうがよい5点
制度の説明を読めば分かる部分と、間違えたときの損失が大きい部分は別です。次の5点は、判断を誤ると申請そのものが無駄になります。
- 引き上げる労働者数の数え方間違えると:上限額の区分が変わり、受給額が半分以下になることがあります。事業場内最低賃金の方に加えて、その引上げによって賃金を追い抜かれる方も、コース以上引き上げれば人数に算入できます
- 賃金引上げの適用日の設定間違えると:申請日より前だった場合も、9月30日を過ぎた場合も不支給です。実際に時給を上げた日ではなく、就業規則の効力発生日で判定されます
- 設備が助成対象かどうか間違えると:交付決定後に発注しても対象外になります。単なる経費削減、職場環境の快適化、汎用事務機器、パソコン等の端末は原則対象外です
- 他の補助金との重複間違えると:不交付事由に直接あたります。同じ設備に県のトランスフォーメーション補助金や市町村の設備補助金を充てていると受けられません
- 複数の事業所を持つ法人の申請設計間違えると:枠を無駄にします。事業場ごとに年度内1回まで、かつ同一事業主で年間600万円が上限です
用意する書類は2点から始まります
労働局に提出する添付書類は、様式第1号の「添付資料」欄に印刷されているとおりです。事業所側で用意していただくのは、申請前6か月分の賃金台帳と設備の見積書の2点だけで、あとは社労士が作る様式です。
図6 書類はどこから来て、どこへ行くか
事業所が用意する申請前6か月分の賃金台帳
設備の見積書(同一条件で二者以上)
→
社労士が作る様式第1号と別紙1・別紙2
就業規則(賃金規程)の改正案
→
労働局へ出す上記をまとめて交付申請
就業規則の写しは実績報告のとき
登記事項証明書・納税証明書・印鑑証明書・決算書は、令和8年度の交付要綱・交付要領・様式第1号・申請マニュアルのいずれにも提出書類として出てきません。他の補助金と混同されやすい部分です。
改正の中身は、引上げ後の額を下限とする条項と施行日があれば足ります。賃金テーブルを作り直す必要はありません。
条件によって加わるものもあります。対象者に月給の方がいれば月平均所定労働時間がわかる書類、申請前6か月以内に離職者がいれば離職理由を証明する書類です。
税抜と税込のどちらで申請するか
様式第1号の5「消費税の適用に関する事項」で、助成対象経費を税抜で計算するか税込で計算するかを選びます。ここは受給額に直結します。
図7 消費税の扱いの選び方
税抜(ア)を選ぶ原則課税の課税事業者。仕入税額控除で消費税が戻るため、税抜で計算します。事業完了後の報告は不要です
税込(イ)を選べる免税事業者、簡易課税事業者、消費税法別表第3に掲げる法人。ほかに、報告と返還を選ぶ事業者も税込を選べます
税込を選んだ場合交付額の確定後に様式第12号で仕入控除税額を報告します。控除できた分は返還しますが、免税・簡易課税は控除税額が0円なので返還は生じません
介護や医療のように非課税売上が多い事業者は、支払った消費税を控除しきれないため、税込で申請できるかどうかで手元に残る額が変わります。
どちらを選ぶかは消費税の課税区分で決まるため、税務の判断を含みます。社会保険労務士は税務判断を行えませんので、顧問税理士にご確認ください。
よくある質問
- 交付決定を待たずに時給を上げてもよいのですか。
- 賃金の引上げは、交付決定ではなく交付申請の後であれば実施できます。むしろ地域別最低賃金の発効日の前日(富山県では9月30日の見込み)までに終える必要があるため、交付決定を待っていると間に合いません。一方で設備の契約・納品・支払は、必ず交付決定を受けた後に行ってください。設備は決定の後、賃金は申請の後、と分けて覚えてください。
- すでに食器洗浄機を持っています。買い替えでも対象になりますか。
- 同じ性能の機種への買い替えは対象になりません。老朽化や破損を機に、既存の機器より高い能力を持つ上級機を導入し、生産性の向上や労働能率の増進が認められる場合は対象です。また、既存の機器だけでは対応できない作業量があり、増設によって労働能率の増進が認められる場合も対象になります。いずれも、能力が上であることや台数が足りないことを、事業実施計画書に具体的な数値や根拠資料を示して説明する必要があります。
- 設備の見積は1社だけでよいですか。
- 契約予定額が10万円未満の場合を除き、原則として同一条件による二者以上の見積が必要です。交付決定がされた場合には、最低価格を提示した者と契約します。中古品を選ぶ場合は、古物商の許可を得ている中古品流通業者3者以上から、型式や年式が記載された相見積が必要です。
- 助成金の入金はいつごろになりますか。
- 設備代金を先にお支払いいただき、事業完了後に実績報告と支給申請を行い、労働局の審査を経て交付額が確定してから入金されます。交付決定までに通常3か月ほどかかることを踏まえると、9月に申請した場合の入金は翌年になる見込みです。設備代金の立替期間が生じますので、資金繰りをあらかじめご確認ください。事業の完了期限は交付決定の属する年度の1月31日です。やむを得ない事由で3月31日まで延ばす必要がある場合は、交付申請のときに理由書を添えて申し出ます(交付要綱第5条第3項・第6条第4項)。交付決定が出てからでは申し出られません。
- 支払いはクレジットカードでもよいですか。
- 認められないのはポイントによる支払いとギフトカードによる支払いだけです。クレジットカード、小切手、約束手形、信販ローンは、事業完了期日(原則1月31日)までに口座から全額引き落とされていれば助成対象になります。引落しが期日をまたぐ場合は対象外です。