富山県の最低賃金は、1,119円への引上げが答申されました。発効は10月1日の見込みです。「まだ確定していないから」と何もせずにいると、10月支給分の給与計算で対象者の洗い出し・単価の変更・日割りの確認が一度に押し寄せます。この記事では、いま先に直せる箇所を給与計算の順番で整理します。
この記事が役立つ方
対象時給者と月給者が混在する富山県内の会社の給与担当者・経営者
困りごと10月の引上げ見込みで、自社の給与のどこをいつ直せばよいか分からない
読後にできること対象者の洗い出しと、締め日をまたぐ計算・原資に使う制度を決められる
この記事のポイント
- いま守る下限は1,062円。1,119円は答申額で、10月1日発効の見込み(2026年8月24日時点で未確定)
- 対象は時給1,062〜1,118円の全員と、月給の下限近くの人。月給は時間額に換算して比べる
- 締め日が月の途中の会社は、10月支給分で旧額と新額の日割りが発生する
まず整理:いまの額・次の額・いつから
富山県の地域別最低賃金は、いま時間額1,062円です(令和7年10月12日発効)。令和8年8月5日、富山地方最低賃金審議会は現行の1,062円を57円引き上げて1,119円とすることが適当であると富山労働局長へ答申しました。引上げ率は5.37%です。
ただし答申は決定ではありません。労働局長の決定と官報公示を経て確定し、発効は令和8年10月1日の見込みです。2026年8月24日時点では公示は出ていません。つまり、いま支払いの下限として守るのは1,062円で、10月支給分から1,119円の前提で準備する、というのが現在地です。額と手続きの進み具合は富山県の最低賃金 いまの額と次の額で更新しています。
図1 いまの額から次の額へ(2026年8月24日時点)
いま1,062円(令和7年10月12日発効・有効)
→8月5日審議会が1,119円を答申(+57円)
→10月1日(見込み)官報公示を経て1,119円が発効
公示が出るまで1,119円は確定ではありません。確定の確認先は富山労働局です。
①対象者を洗い出す(時給者だけではない)
最初に行うのは、賃金台帳から対象者を抜き出すことです。対象は2つのグループに分かれます。
1つ目は時給1,062円〜1,118円の全員です。いまは適法でも、発効日以降の労働からは1,119円を下回ります。たとえば時給1,100円のパート従業員も対象です。2つ目は月給の下限近くの人です。月給者も時間額に換算して最低賃金と比べるため、換算すると下回る、という見落としが起きます(換算は次の章)。
影響額の目安も先に出しておきます。月160時間働く時給1,062円の従業員を1,119円に引き上げると、1人あたり月9,120円、年間で約11万円の増額です。社会保険料の会社負担も賃金に連動して増えるため、人数が多い会社ほど資金計画に効きます。
図2 対象者は2グループ
時給1,062〜1,118円の全員発効日以降の労働から新しい額を下回る。昇給済みのつもりの1,100円も対象
月給の下限近くの人月給を時間額に換算して判定。基本給が同じでも所定労働時間が長い会社ほど危ない
賃金台帳と雇用契約書を突き合わせて、氏名で一覧にします。
②月給者は時間額に換算して比べる
月給者の判定は、月給÷1か月平均の所定労働時間で時間額に直して行います。1か月平均の所定労働時間は「年間の所定労働時間÷12か月」です。たとえば1日8時間・年間所定250日の会社なら、年2,000時間÷12=約166.7時間です。
このとき、比較する月給に入れない賃金があります。精皆勤手当・通勤手当・家族手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与は除いて比べます。基本給と毎月固定の職務手当などが比較の対象です。手当を除いた額で判定すると、額面では余裕があるように見えた月給者が下限を割っていることがあります。
| 1か月平均の所定労働時間 | いまの下限(1,062円) | 10月からの下限(1,119円・見込み) |
|---|
| 160時間(年1,920時間) | 169,920円 | 179,040円 |
| 166.7時間(年2,000時間) | 177,000円 | 186,500円 |
| 170時間(年2,040時間) | 180,540円 | 190,230円 |
※比較対象になる賃金(基本給+対象の手当)での下限額です。金額は年間所定労働時間÷12で計算しています。自社の就業規則の所定労働時間で計算し直してください。
年2,000時間の会社なら、対象賃金が月18万6,500円に届かない月給者が10月からの引上げ対象です。月給の判定は「時間額に直すと今回初めて引っかかる」層が出やすく、ここを飛ばすと発効後に気づくことになります。
③締め日をまたぐ月の日割り計算
新しい最低賃金は、発効日以降の労働に適用されます。締め日が月末の会社は10月分の給与から一括で切り替わりますが、締め日が月の途中の会社は、同じ給与計算期間の中に旧額の日と新額の日が混ざります。
たとえば20日締め・当月末払いの会社で10月1日に発効した場合、10月20日締めの計算期間は「9月21日〜9月30日=1,062円」「10月1日〜10月20日=1,119円」の2段で計算します。時給者はその期間の労働時間を発効日の前後で分けて集計する必要があります。前年度も富山は10月12日という月の途中の発効だったので、締め日によっては2年連続で同じ日割りが発生します。
図3 20日締めの会社の10月支給分(発効が10月1日の場合)
9/21〜9/30旧額1,062円で集計
→10/1〜10/20新額1,119円で集計
→10月支給2段の合算で支給。給与ソフトの単価切替日を確認
給与ソフトによっては時給単価の適用開始日を設定できます。手計算の会社は集計表を先に2段に分けておきます。
④割増単価と求人票も連動して変わる
時給を上げると、変わるのは基本の時給だけではありません。時間外・休日・深夜の割増賃金の単価は時給をもとに計算するため、連動して上がります。固定残業代を設定している会社は、想定している残業時間分を新しい単価で計算し直し、固定額が不足しないかを確認します。
もう1つ忘れやすいのが求人票と労働条件通知書です。ハローワークや求人サイトに出している時給が1,119円を下回ったままだと、発効後は募集自体が最低賃金割れになります。10月以降の入社者の労働条件通知書・雇用契約書のひな形も、新しい額で作り直しておきます。
⑤引上げの原資に使える3つの制度
富山県内の会社は、賃上げの負担に対して国と県の制度を重ねて使える場合があります。どれも「使えば受給できる」と約束できる制度ではありませんが、要件に当てはまるかの確認は引上げの前に行う価値があります。
図4 賃上げに使える制度の入口(2026年8月24日時点)
業務改善助成金(国)事業場内最低賃金の引上げ+設備投資への助成。令和8年度は9月1日申請開始 富山県賃上げサポート補助金業務改善助成金の交付決定を受けた30人未満の事業場への県の上乗せ
富山県賃上げ応援補助金助成金申請や就業規則整備を社労士等へ依頼した報酬費用の一部を補助(上限10万円)
締切と要件は変わることがあります。各制度の最新の要領で確認してください。
業務改善助成金は最低賃金の引上げと直結する制度で、富山の締切や申請の順序は富山県の業務改善助成金の記事にまとめています。社労士への依頼費用そのものを補助する県の制度は富山県賃上げ応援補助金の解説をご覧ください。
ここは自社だけで判断しないほうがよい
最低賃金を下回る賃金で合意しても、その部分は無効になり、最低賃金額で契約したものとみなされます。下回っていた期間の差額は支払う必要があり、地域別最低賃金の不払いには罰則の定めもあります。「知らなかった」では戻れない領域なので、判定に迷う給与設計がある場合は発効前にご相談ください。
よくある質問
- 10月1日から必ず1,119円になりますか?
- 1,119円は令和8年8月5日の審議会の答申額で、労働局長の決定と官報公示を経て確定します。発効は10月1日の見込みですが、公示までは確定ではありません。それまでの下限は1,062円のままです。
- 月給制や年俸制にも最低賃金は適用されますか?
- 適用されます。月給や年俸を1か月平均の所定労働時間で時間額に換算し、最低賃金と比べます。時給者だけの制度ではありません。
- 産業別の最低賃金がある業種は、どちらを守ればよいですか?
- 地域別と産業別の高いほうが適用されます。富山県の特定(産業別)最低賃金3件はいずれも地域別の1,062円を下回っているため、実務では地域別の額で確認します。
今日から行う3つのこと
- 賃金台帳から時給1,119円未満の人と、換算で下限に近い月給者を氏名で一覧にする
- 自社の締め日で10月支給分の計算期間を確認し、日割りが要るかを決める
- 公示が出たら求人票・雇用契約書のひな形・給与ソフトの単価を同じ日に切り替えられるよう準備する
当事務所のサポート
顧問契約の給与計算では、最低賃金の改定を毎年の計算にこちらで反映します。対象者の洗い出しや月給者の換算判定、業務改善助成金・県の補助金の要件確認も、引上げの前の段階からご相談いただけます。