歯科技工物を外注している医院向けに、令和8年度に新設された歯科技工所ベースアップ支援料を図解で整理しました。技工所で働く歯科技工士の賃上げのための制度ですが、届け出るのは技工所ではなく医院です。まずそこが分かりにくいところなので、お金と書類の流れから順に見ていきます。数字はすべて令和8年度時点のものです。
この記事のポイント
- 1装置につき15点(150円)。装着したときに算定し、全額を技工所への委託費の増額に充てます。医院の収益にはなりません。
- 届出の前に、技工所に賃上げの意向があるかを確認して連携することが施設基準で求められています。医院だけで決められません。
- 委託費の上乗せは1装置いくら、と単価で決めると持ち出しが出ません。消費税分も支援料から充ててよいことになっています。
01
なぜ技工所ではなく、医院が届け出るのか
歯科技工所は保険医療機関ではないため、診療報酬を算定する立場にありません。
図1 お金は医院を通って技工士へ届く
1患者さんの負担+健康保険補綴物などを装着したときに、1装置につき15点が上乗せされます。
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2歯科医院保険医療機関なので算定できます。国と直接つながっているのはここだけです。
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3歯科技工所保険医療機関ではないので算定できません。委託費の増額という形で受け取ります。
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4歯科技工士技工所のなかで賃金に反映されます。
技工所は制度の外側にいるため、国に届け出ることも報告することもできません。そこで、保険医療機関である医院が算定し、委託費に上乗せして渡し、厚生局へ報告するという形になっています。医院は中継点です。
02
1装置につき15点。患者さんの負担はいくらか
来院1回ごとではなく、装着した装置の数で数えます。
図2 150円の内訳(患者さんの負担割合ごと)
残りは健康保険から支払われ、医院が受け取る額は負担割合にかかわらず150円です。補綴物は高齢の患者さんが多いため、実際には1割・2割の方の比率がそれなりにあります。
数え方は「1装置につき1回」です。同じ日に2つの装置を装着すれば2回算定します。国の疑義解釈で、キーパー付き根面板と有床義歯は別の装置なのでそれぞれ算定できる、帯環と固定式矯正装置は同一の装置なので1回、と整理されています。
算定できないのは、院内の歯科技工士が製作した分です。この制度は外注先の技工所を支援するものなので、院内技工は対象外になります。なお、患者さんが来院されず装着できなかった場合は、未来院請求のときに算定して差し支えないとされています。
令和9年6月以降は、所定点数の200/100に相当する点数で算定します。
03
届出の前に、技工所と話をする必要があります
医院が単独で届け出る制度ではありません。ここが見落とされやすいところです。
図3 届出までの3ステップ
STEP 1技工所に意向を確認するこの支援料で賃上げをする意向があるかを、委託先ごとに確認します。
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STEP 2賃上げの方法を一緒に決めるいつから、いくら、どう上乗せするか。様式101にこの内容を書きます。
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STEP 3医院が届け出る別添2と様式101を、管轄の厚生局へメールで提出します。
施設基準に「製作等を委託する歯科技工所が当該支援料による賃金改善の意向を有する場合に、当該歯科技工所と連携の上で届出を行う」と定められています。意向確認をとばして届け出ることはできません。
様式101で唯一、考えて書く欄が「歯科技工所における賃金引き上げの方法」です。記載上の注意に「歯科技工所と連携し、可能な限り具体的に記載すること」とあります。他社の賃金の話を医院が書くことになるので、技工所からのヒアリングなしには書けません。実務で手が止まりやすいのがここです。
04
届出と報告のスケジュール
ベースアップ評価料と違い、中間報告書はありません。実績報告だけです。
図4 届出から実績報告までの流れ
- 令和8年
5月まで届出書を提出する別添2と様式101。受理されると、原則として翌月1日から算定できます。
- 令和8年
6月算定を開始する装着の算定日に、1装置15点を算定します。委託費の上乗せも同じ月から始めます。
- 令和9年
8月実績報告書を提出する令和8年度分。様式102と(別添1)で作成します。ここが初回の報告です。
- 令和10年
8月実績報告書を提出する令和9年度分。以後は毎年8月に報告が続きます。
ベースアップ評価料は8月に「中間報告書」と「実績報告書」の2本を出しますが、技工所支援料は実績報告書のみで、初回は令和9年8月です。混同しやすいので、院内の年間予定に分けて書いておくことをおすすめします。
05
委託費への上乗せは「単価で決める」と持ち出しが出ません
受け取った支援料は全額を委託費の増額に充てます。決め方によって差額が生じます。
図5 上乗せ額の決め方で結果が変わる
✕毎月◯円と定額で約束する
装着数が想定より少ない月は、受け取る額より払う額が多くなり医院の持ち出しになります。逆に多い月は余りが出ますが、支援料は全額を充てる決まりなので、追加で払うことになります。
○1装置につき150円と単価で決める
算定した分だけ上乗せするので、受け取る額と払う額が常に一致します。技工所側も月ごとの根拠が明確になり、請求書にもそのまま書けます。
支払いは技工料金にまとめて構いませんが、当該支援料が含まれることが分かる請求書等を保存することが求められています。単価で決めておけば、請求書の書き方だけでこの要件を満たせます。
もうひとつ、避けられない資金のズレがあります。診療報酬の入金はおおむね2か月後ですが、技工所への支払いは通常、月末締めの翌月払いです。つまり先に払って後から回収する形になり、常に1か月分ほどの立替えが生じます。損失ではありませんが、装着数の多い医院では資金繰りに入れておいてください。
06
消費税の分も、支援料から充てて構いません
ここを誤解すると、医院が消費税分を負担することになります。
図6 150円の内訳(税込で考える)
委託費の増額分
技工料金の本体に上乗せする額(税抜)
136円
合計150円。支援料と同額に収まるので、医院の持ち出しは生じません。疑義解釈で「委託費の増額に伴う消費税の増額分について、当該支援料を充当することとして差し支えない」と明示されています。
逆に「税抜150円を上乗せする」と決めてしまうと、消費税を加えた支払いは165円になり、差額の15円は医院の負担になります。禁止されているわけではありませんが、そうする理由はありません。技工所と単価を決めるときは、150円が税込なのか税抜なのかを必ず言葉にして確認してください。
07
翌年8月の実績報告で書くこと
金額の突合はありません。そのぶん、書類の保管が要になります。
図7 実績報告書に書く欄・書かない欄
01書く欄
賃金改善支援を実施した期間と、支援料を算定した期間。委託先の技工所ごとの算定回数。合計回数と算定額は自動で計算されます。
02書く欄がないもの
委託費をいくら増やしたか、技工士の賃金がいくら上がったか。これらを記入する欄はありません。
03代わりに求められること
記載内容に虚偽がないことと、それを証明する資料を適切に保管していることの誓約です。
医院は技工所の賃金台帳を見られないので、金額を書面で突き合わせる設計になっていません。そのぶん「支援料が含まれることが分かる請求書等」の保管が、実質的な証明になります。指導や監査で確認されるのはこの資料です。
もうひとつ実務で効いてくるのが、技工所ごとの算定回数を書く欄があることです。委託先が複数ある医院では、装着した装置がどの技工所の製作物かを月ごとに記録しておかないと、1年後に書けません。記載上の注意は「可能な範囲で」と逃げ道を用意していますが、そこに頼る前提で始めるべきではありません。届出をした月から記録の仕組みを作っておいてください。
08
医院だけでは判断が難しいところ
ここから先は、技工所との取り決めと院内の記録が絡みます。決めてしまう前にご確認ください。
図8 つまずきやすい4か所
01単価が税込か税抜か、技工所と認識が合っていない
ずれると:1装置あたり15円前後の持ち出しが、装着数の分だけ積み上がります。
02技工所ごとの装着数を記録していない
ずれると:翌年8月の実績報告で内訳が書けず、遡って集計することになります。
03請求書に支援料分が分かる記載がない
ずれると:保管が求められている証明資料をそろえられません。
04院内技工と外注が混在していて仕分けできない
ずれると:院内で製作した分まで算定してしまう可能性があります。
4つのうち1つでも「どうすればよいか分からない」があれば、届出をする前にご相談ください。あとから直すより、始める前に決めておくほうがはるかに簡単です。
よくある質問
- 委託している技工所が複数あります。全部の技工所と話をしないといけませんか。
- 施設基準では、支援料による賃金改善の意向がある技工所と連携して届け出ることとされています。様式101には委託先の名称を書く欄があり、実績報告書では技工所ごとの算定回数を書きます。委託先ごとに意向を確認し、上乗せの方法を取り決めておくのが基本の形になります。
- 院内に歯科技工士がいます。その分も算定できますか。
- 算定できません。歯科医師から交付された歯科技工指示書や直接の指示に基づき、院内の歯科技工士が製作や修理を行う場合は対象外とされています。外注した分だけが対象です。院内技工と外注が混在している医院では、装着ごとにどちらの製作かが分かる記録が必要になります。
- 届出をした時点で、すでに技工所で製作が始まっている補綴物はどうなりますか。
- 対象になります。疑義解釈で、届出時点ですでに製作等を開始している場合も対象となり、補綴物等の装着時に支援料を算定して差し支えないと示されています。
当事務所のサポート
この制度は、届出の書類そのものは短く、記入に時間はかかりません。手間がかかるのは、その前後にある技工所との取り決めと院内の記録の仕組みづくりです。当事務所では、委託先への意向確認の進め方、単価と消費税を含めた上乗せ方法の設計、様式101に書く「賃金引き上げの方法」の文案づくり、そして翌年8月の実績報告に向けた記録の整え方までをご一緒に進めます。
ベースアップ評価料とあわせてご相談いただくと、医院の職員と技工所の両方を一度に整理できます。「うちは対象になるのか」「どこから手をつければよいか」という段階でも構いません。無料相談からお気軽にお声がけください。オンラインにも対応しています。
ご注意
本記事は令和8年度の診療報酬改定資料および厚生労働省の疑義解釈をもとにした一般的な整理です(2026年8月9日時点)。点数・様式・取扱いは年度によって変わり、追加の解釈が示されることもあります。個別の医院での取扱いを保証するものではありません。実際の届出・報告にあたっては、厚生労働省の公式資料および管轄の地方厚生局の案内をご確認いただくか、当事務所へお問い合わせください。